「メカクシ団」の挑戦 ~「ソーシャルな連帯」の写し絵としての「カゲロウプロジェクト」~

「カゲロウプロジェクト」小説版『カゲロウデイズ』(ややこしい)、最新刊である5巻まで読み終えました。

カゲロウデイズV -the deceiving- (KCG文庫)

カゲロウデイズV -the deceiving- (KCG文庫)

 

小説というメディアの特性を活かして、キャラクターの内面描写に重きを置いているとじん氏も語っていましたが、果たしてその通りで、「あの(動画で見た)場面で、あのキャラクターは何を思って行動していたのか?」というのを、補完する作りになっています。

5巻の時点で、最終的に果たすべき目的が見えてきた感もあります。まだ内面描写のないキャラクターもいますので、あと数巻は続くかと思われますが、シリーズの完結はそう遠くない日に訪れるのでしょう(あとがきでもそう語られていましたし)。


さて、アニメ『メカクシティアクターズ』がついに、明日4/12 (土) 24:00より放送開始します。

それに向けて、小説を読んで気づいたことも踏まえつつ、「カゲロウプロジェクト」全体における独特のキャラクター配置について整理しておきたいと思います。


先に結論を言ってしまうと、この「メカクシ団」、「団」というにはあまりにメンバー同士が過ごした時間にグラデーションがあります。

「ループもの」として「8月14日」と「8月15日」を繰り返す構造を持っている「カゲプロ」ですが、もしこの2日間を基準として考えると、「昨日まで非団員」だったメンバーは実に半数を超えるのです。


まずオリジナルメンバーとして、同じ孤児院で育った「キド」「セト」「カノ」の三名がいます。これに「セト」が引き込む形で加わった「マリー」を加えた四名が、物語開始時点(8月14日)のメカクシ団メンバーとなります。

ここに「モモ」「シンタロー」「エネ」「ヒビヤ」「コノハ」の順番で五名が参加していくというのが、序盤の展開です。「モモ」と「シンタロー」は兄妹であり、「エネ」はこの兄妹、そして「コノハ」とそれぞれ面識があります(ただし兄妹と「コノハ」の間に面識はない)。

なお「コノハ」は「エネ」と友人関係にあった頃の記憶を失っています。「ヒビヤ」は記憶喪失後の「コノハ」と、物語が始まるほんの数日前に顔見知りになった程度の関係です(したがって最も部外者としての性格が強いのが、最年少である「ヒビヤ」と言えます)。


半数以上が「昨日まで他人」だったにも関わらず「団」としてまとまりを見せ、共通の困難に立ち向かっていくというのは、そこだけ取り出すといかにもご都合主義的なのですが……ここで効いてくるのが「メカクシ団No.0」とされている「アヤノ」というキャラクターの存在です。

「アヤノ」はオリジナルメンバーである「キド」「セト」「カノ」の義姉にあたる人物で、現在は死亡している(厳密には異なるが、少なくとも物語開始時点で「この世界」には存在していない)という設定です。幼少の頃、このきょうだいの「ごっこ遊び」につけられた名前が「メカクシ団」なのです。

また「アヤノ」は「シンタロー」の同級生であり、「エネ」とも交流を持っていた人物でもあります(実際にはもう少し込み入った関係性があるのですが、ここでは省略します)。重要なのは「アヤノ」をハブとした数珠つなぎのネットワークが、現在の「メカクシ団」を形作っているということです。


ここに「友達の友達は……」という、ソーシャルネットワーキングの思想を見て取ることは容易でしょう。SNSにそれほど耽溺しているとは言いがたい私のような者からすると、「出会って1日や2日で協力して事に当たれるものかね?」などと思ってしまうのですが、そもそも「カゲロウプロジェクト」自体がそのような創作の連鎖によってここまで広がってきたものでもあります。SNS世代の、人間の連帯に対するある種のオプティミズムが、自然な形で表れているといえるのではないでしょうか。


彼らはそれぞれ、己が疎ましく思う「能力」を身につけています。同種の「能力」を持つがゆえに引かれ合い、その謎を解くために手を携え始めた彼らですが、その背後には「アヤノ」という共通の縁者の存在があったわけです。

彼女の消失と「能力」の存在には密接な関係があり、「新生・メカクシ団」は当初の目的を超え、「アヤノ」を救うためにこそ結束を強めていくものと思われます。しかし「アヤノ」への距離感にはメンバー間で当然グラデーションがあるわけで、目的が変化していく中で「団」としての結束は保たれるのかというのも、ひとつの見所になることでしょう(それはあたかも、ソーシャル時代の連帯観をもとに成立した「カゲロウプロジェクト」という作品のあり方を、自ら問うているようでもあります)。


メカクシティアクターズ』期待しています。