アニメ『刀使ノ巫女』がすごかった。

アニメ『刀使ノ巫女』がすごかった。

完璧、100点満点すぎて書くことがないくらいなのだが、残念ながら一部熱狂的ファン以外には知られていないのが現状であるようなので、記録のためにも書いておこうと思う。

まず話の展開が面白い。ある剣術の大会の決勝で、主人公格のひとり(十条姫和)がいきなり刀使のトップに立つ偉い人(折神紫)に斬りかかるところから始まる。偉い人はラスボスである悪霊の親玉みたいのに取り憑かれていて、それを討つためではあったのだがそんなことは他の人間にはわからずお尋ね者になってしまう。そうしたら決勝で当たったもうひとりの主人公(衛藤可奈美)がさっき会ったばかりの姫和のことを助ける。可奈美はバトルマニアで「斬り結べば人となりもわかる」とか言い始めるタイプの人なのだが、それで姫和には何か事情があってそんなことをしたのだと確信したというのだ。こうして一見して相性の良くない二人組の逃避行がなし崩し的に始まっていく。

なし崩し的に始まるストーリーはライブ感を生む一方で、世界観を理解できないままにどんどん話が動いていくので、置いてけぼりになる可能性もある。特に最初のうちは刀使の使う独自の戦闘技術のせいで、戦闘で何が起こっているのかわかりづらい。ゴースト状態になり致命傷を避けることができる技「写シ」、加速した時間の流れに突入することで超高速戦闘を可能にする「迅移」など、作中の根幹の謎にも関わる「隠世」周りの設定がややこしい。自分も最初のうちは戦闘で何が起こっているのかわからなかった(1クール目の終盤でようやくなんとなく理解きるようになった)。これに関しては一気見することでストーリー展開の面白さの波に乗るしかないとしか言えない。幸いAmazonプライムに入っているし、どうしても理屈を理解したい人には用語集も充実している。


・用語集(公式サイト)

キービジュアルにも描かれているようにメイン格は6人なのだが、徐々に合流していく展開。6人というのはわりと多いと思うんだけど、序盤はペア×3をつくることでうまいこと視聴者の認識を助けている。(後期では別の組み合わせ、6人全員のチーム感というのも出てくる)

親衛隊という敵サイドのキャラも魅力的。前述のように刀使のトップに立つ折神紫は実は荒魂(大荒魂と呼ばれる高い知性を持った存在)に取り憑かれているのだが、親衛隊の面々は薄々そんな状態に気づきつつも、それぞれの思惑で籍を置いている。
親衛隊は荒魂の力を取り入れることで強さを得ている(人体実験的な…)。それによって病弱だが延命してた燕結芽というキャラの散り様を描いた11話が僕のベスト話数。傍から見て明らかに切ない人生だった人が、それでも人生を走りきったという満足感の中死んでいく…って話にはどうも弱い。「幸せだったかなんて当人にしかわからない」という命題をきっちり描いている作品は信頼できる。

荒魂という悪霊的なものを祓うのが「刀使」なのだが、悪霊というのは考え方でしかなく、祀り鎮める、敬意の対象である神であるという考え方も後に出てくる。荒魂はそれを斬る「御刀」を精製するときに出る不純物(ノロ)が結合し生命体のようになった存在、という設定もあり、そうした民俗学っぽいバックグラウンドもしっかり作られている。

ここで剣術のことにも触れておくと、実在の流派が各キャラにつきひとつ割り振られていて、構えや陣形などは専門家の助けを借りて忠実に描かれている。戦闘となると3Dモデルになることも多くこれに最初は違和感があったのだが、たとえば感覚が研ぎ澄まされて動きが超スローに見えるとか、空間的な集団戦闘の表現とか、終盤で出てくる「相手の技をコピーして戦う」なんていうのもモーションを使い回すことができる3Dの利点を活かしたものであり。単なる作画コストの省力化ではない、3Dモデルの可能性がこんなところにあったのかと唸らされた。

「継承」の主題がある。「御刀」は前の持ち主が死んだり、刀使を引退すると次の持ち主を選ぶという。それは必ずしも血縁に限らないが、母娘間でこの継承関係があるのが姫和と可奈美。最終話はまさにこの主題をもって全体が締めくくられる。母が娘を想う、という素朴な愛情表現だけではなく、刀使としてのプロフェッショナリズムと絡めて描かれているというのが好感ポイント。結果的に半数が亡くなる親衛隊まわりにおいてもこの主題に基づいたエピローグでの回収がなされており、キャラクターへの行き届いた配慮を感じる。

世界情勢などもきっちり組み込んでいる。荒魂テクノロジーアメリカが狙っているとか…こんなやばいことが起こってるのに日本だけの問題で終わるかよ? ってツッコミを予め回避していてスキがないなと。また、荒魂は刀使しか斬ることができないのだが、バックアップとして自衛隊も出てくる。攻撃の支援というよりは刀使が来るまでの足止め、避難誘導が主な役割という感じだが…重要な局面では彼らの表情がきちんと描かれることもあり、ファンタジー的な存在である刀使とモブキャラでしかない彼らがプロとして互いを信頼している様子が見受けられるのが気持ちいい。

回想シーンでは死体が運ばれていく描写なんかもあり、全体的にハードな世界観。大荒魂は封印したが荒魂の本質は本来善も悪もない災害のようなものなので、これからも人命を守るための彼女たちの闘いは続いていくのだろう。
ハードなプロフェッショナルの世界を民俗学的な伝統と剣術を主体とした「意志の継承」という主題で乗り越えながら、ライブ感あるストーリーテリングでキャラクター同士の関係性の変化も楽しめる。キャラクターデザイン自体のかわいさに加えクスリと笑えるギャグ的なセンスも時に光り、2クールあったからこその立体的な楽しみ方のできる作品だった(並行してローンチしたアプリゲームでは本編の裏側を描くなどのストーリー補完も行われており、応援次第で今後も息の長い展開が期待できそうだ)。

まだまだこんなアニメを観ることができるのだなという驚きと喜びがあった。スタッフの皆さん、本当にありがとうございました。