アニメ『色づく世界の明日から』オープニングテーマを担当する、ハルカトミユキの「オルタナティブ」な魅力

P.A.WORKSの新作アニメーション作品『色づく世界の明日から』の放送がスタートした。同スタジオらしい透明感のある映像表現、「色のない世界に生きる少女が、祖母が自分と同年代だった時代にタイムスリップする」という筋書きからどのような繊細なドラマが紡がれるのか、楽しみでならない。

Charlotte』のEDや評価の高い第7話の絵コンテを手がけた篠原俊哉氏の監督作ということでも個人的に楽しみなのだが、それ以上に僕のアンテナを反応させたのがOP主題歌に「ハルカトミユキ」を起用したということだ。「オルタナティブ・フォークユニット」を謳う彼女たちにはデビュー当時から注目していて、すべての作品に耳を通している。

彼女たちは前述のキャッチフレーズもそうだし、ドラムにはsyrup16g中畑大樹氏を起用していたりなど、日本のオルタナティブロックの系譜に位置づけられる存在だ。深くリヴァーブのかかったギター、切迫感のあるリズム、そして自己と世界との摩擦をそのまま言葉にしたような歌詞。どちらかというと「暗い」というイメージを持たれることも多いユニットだと思う。しかしその奥には光を希求する心や未来へ向かう意思というものが、これ以上ないほどに透けて見えるのだ。『色づく世界の明日から』というタイトルの作品の主題歌を担当するのに、これ以上ない人選だと思う。この記事ではそんな「ハルカトミユキ」の魅力を知ってもらうべく、音源とともに印象的なフレーズを紹介していく。

 

絶望ごっこ

何一つも欠けてないのに泣いてる君は
可哀想だね。
愛想尽かして見放す僕も
結局ここに戻ってくる。

ハルカトミユキ 絶望ごっこ 歌詞 - 歌ネット


1st EP(デビュー盤)に収録された楽曲である。それでいきなりこのタイトルなのだから、彼女たちがファッションとしての「暗さ」を売りにしているようなユニットではないことは推して知るべしだろう。これは商業主義的な「暗さ」への皮肉であると同時に、しかしやはり自分自身へ向けられた言葉でもあるのだと思う。確かに「絶望ごっこ」している間は気持ちいいのだ。そのことを認めた上でないと辿り着けない景色がある。

 

ドライアイス

ただ生きていて
こんな世界に今更期待などしない
閉じ込められた果てに僕らは
みんな壊して笑ってやるよ

ハルカトミユキ ドライアイス 歌詞 - 歌ネット

2nd EPのリードトラック。引用した歌詞は終局部におけるサビのリフレインにて歌われるが、そこで一瞬の転調が効いているのだ。かき鳴らされるテレキャスターと、寄り添うようなピアノの音色。突き放したような歌詞とは裏腹な優しさと哀しさをメロディは湛えていて、こうしたアンビバレントな要素の同居は彼女たちのベーシックとなっていると思う。真っ白い空間と青みがかった砂浜を舞台にしたミュージックビデオも、ことさらに美しい。

 

その日がきたら

ねえ、君は知ってる?
世界はもうすぐに終わるってこと。
でも、僕は知ってる。
世界なんてとっくに終わってるんだ。

ハルカトミユキ その日がきたら 歌詞 - 歌ネット


3rd EPのリードトラック。引用したのは歌い出しである。こんな歌い出しで始まるポップソングを聴いたことがあるだろうか? この楽曲に関しては全編歌詞を引用したいくらいなのだが、最終的に「その日が来たら君と幸せになろう。」というラインによって結ばれることは言っておきたい。終盤近くでノイズギターをバックに不穏なポエトリーリーディングが入るパートがあることも特筆しておく。ほぼ全曲のソングライティングを手がけるハルカ氏(歌っている方)は歌人穂村弘氏を尊敬する人に挙げていたりもして、言語表現に意識的に取り組んでいる人なのだ。

 

Pain

あの日にこぼした赤いジュースのように
洗っても消えない染みが胸に残った
ずるいよ ずるいよ ねえ君ならもう
真っ白いでしょう
跡形もないでしょう? 

ハルカトミユキ Pain 歌詞 - 歌ネット


2016年に発売された2ndフルアルバム『LOVELESS/ARTLESS』からの1曲。音源のバンド色の強いアレンジも良いのだが、シンプルなアコースティックアレンジになることによって、言葉のひとつひとつがまるで私たち自身の内側から湧き上がってくるように響いてくる。彼女たちの言葉はどれも良い意味で非人称的に聴こえる。共感を誘うのでもプロテストを促すのでもなく、リスナー個々に自分と世界との摩擦の存在に気づかせる。そうして「私たち」の歌ではなく「私」の歌になっていくところに、彼女たちも標榜する「オルタナティブ」の神髄があるといえるだろう。

 

いかがだっただろうか。今回はYouTubeに音源のあるものを中心に取り上げたが、他にも良い曲がたくさんある。特に好きなものを挙げると「Vanilla」「シアノタイプ」「mosaic」「バッドエンドの続きを」「COPY」「Stand Up, Baby」……などなど。気になった方はSpotifyやダウンロード配信もされているので、ぜひ聴いてみてほしい。

 

ハルカトミユキは現在ソニーミュージックに所属していて、『色づく世界の明日から』はソニーミュージック系列のアニプレックス制作ではないことから、監督や脚本サイドが彼女たちの楽曲にほれ込んで一本釣りしたのではないかと、個人的には予想している。詳しい経緯については今後インタビューなどで語られると思うが……大事なのは深夜アニメ作品に彼女たちのようなオルタナティブな音楽性の、アニメとはこれまで縁のなかったユニットが起用されたことの意義だ。

P.A.WORKSオルタナティブロックといえば、思い出されるのはやはり2010年の『Angel Beats!』である。同作中には「Girls Dead Monster(ガルデモ)」というガールズバンドが登場した。ギタリスト「ひさ子」の名前は日本のオルタナティブロックの代表的存在・ナンバーガールのギタリスト、田渕ひさ子から取られていると思われるし、ギターボーカルの岩沢が影響を受けたバンドは「Sad Machine」……これはやはりオルタナティブ・ロックバンドである、ART-SCHOOLの楽曲「サッドマシーン」が元ネタと言われている。

当時はいまほどSNSスマートフォンが普及していなかった時代だ。深夜にアニメを観ることも、ヘッドフォンでロックを聴くことも、シェアするためのハードルは様々な意味で高く、自身の内側に深く潜っていく体験として共通の意味合いを持っていた。P.A.WORKSというより(『Angel Beats!』の脚本を担当した)麻枝准の作風と言うべきかもしれないが、オルタナティブロックに特有の焦燥感や無力感、それを音に変換することで理不尽さに立ち向かっていく様をアニメで表現したのは、少なくない視聴者に強いシンパシーを引き起こしたはずだ。そのままでは内側で淀んでいくだけの孤独感も、音楽になることで世界を震わす大きなうねりになるかもしれない。そんな希望を与えてくれる存在として、「ガルデモ」というバンドはアニメの中に存在していた。

 

『色づく世界の明日から』は音楽がキーになる作品ではない。舞台は「写真美術部」ということで、むしろ視覚芸術がキーになる作品である。主人公の少女にしても、ひとりだけ「色が見えない」ということが彼女が抱える孤独感と深くつながっている。そんな彼女はタイムスリップした先で、唯一色を与えてくれる少年と出会うのだという。しかし二人の間には時間という埋めがたい溝がある。その事実は少女が色を取り戻した後にこそ、二人が決して「同じ」世界を生きていないことを彼女に突きつけるだろう。

物語の全編を薄く覆う別離の予感。それを包み込むように鳴らされるのが、ハルカトミユキの歌う主題歌「17才」である。きらびやかなシンセサイザーの音色や神聖さを湛えたコーラスワークも手伝って、一聴してわかりやすく希望を歌った曲のように聴こえるかもしれない。しかし歌詞を注意深く追っていけば、これまで紹介してきた彼女たちの楽曲と共通する、自己と世界との摩擦を強く感じさせる表現に気づくことができる。

たとえば今日までの僕が壊された夜
誰にも愛されていないと感じた夜
ただまっすぐに透き通る明日を
信じることができたならば

眩しくて眩しすぎて瞳凝らしていた
君の心の色さえわからないから

新しい季節と誰かのサイン
見逃さないように僕らは走る
遠くても遠くても それは祈りのように
輝きを探してる
雨上がり 虹が架かるよ

耳コピなので間違っている可能性はあり

自分以外の誰かの「心の色」は、いくら瞳を凝らしてもわからない。相手がどんな色を見ているのかは、かすかに感じ取れる「サイン」を手がかりにして推し量るしかないのだ。人と人との間にある、絶対的な断絶。サビの最後で歌われるように、そこにはただ「祈り」がある。楽曲から感じ取れる光のイメージは、そのようにして束の間差し込むものにすぎないのだ。オルタナティブロックは自己と世界の摩擦を鳴らす音楽であり、他者に100%の自分を預けたりはしない……そんな系譜を汲むミュージシャンガ主題歌を担当する今作は、ありきたりのラブストーリーにはならないはずだ。最後まで物語の行く末を見届けたい。