Key ORCHESTRA CONCERT 2019

東京・六本木のサントリーホールで行われた、「Key ORCHESTRA CONCERT 2019」に行ってきた。

Key ORCHESTRA CONCERT 2019〜祝!20周年。最大の感謝と感動をあなたへ〜 | 株式会社アイムビレッジ

 

言いたいことはたったひとつ。

 

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息が止まった。
何が起きているか理解できなかった。

 

アンコールの1曲目が終わって、Liaさんがはけて、今度は熊木杏里さん(本編ですでに「君の文字」を歌唱していた)を伴って出てきた。

 

ああ、2人のレアなデュエットか、Keyを代表する曲で、今回やってないやつを何かやるんだろうくらいに思っていた。

 

なんだこのテンポは。
なんだこのエレキギターは。

 

Aメロが終わる頃やっと現実に頭が追いついた。

 

ああ、これは、「Bravely You」だ……

 

頭をかきむしった。呼吸が浅くなった。

 

その間にも曲はどんどん展開していく。
間奏のパートではリズムセクションが静かになり、2人のかけあいで例の歌詞が歌われていく。

 

なにをえらびとる なにをあきらめる
きめようとしてる ぼくはなにさまだ

 

まちがいはないか かみにといかける!
のところで、一気にフルオーケストラに。

 

ふとエレキギターとベースの人を見ると、これまで座っていたのに立って弾いていることに気づいて胸が熱くなり。
(というか、そもそもエレキギターの人はこのときのためだけに出てきたような)

 

そして重厚なコーラス。
アニメ『ジョジョ 黄金の風』のOPが途中でバージョン違いになった、あのクライマックスの感じといえばわかりやすいだろうか?
荘厳、としか言いようのない音の塊。

 

コンサート全編に感じたことだが、「良いアレンジ」とはその曲において潜在的に鳴っていた音を具現化させるものだ。
鼓膜のふるえとしてそれを聴き取ってはいなかったが、確かにそれを僕らはこれまでも聴いていたのだ……と錯覚させられるような。

 

楽曲の持つポテンシャル……
Keyの場合、それはその楽曲と密接な関係を持つ、物語のポテンシャルと同義だ。

 

Charlotte』は、シナリオを書いた当の麻枝さん自身が失敗作と断じてしまった。
実際ストーリー展開には難点もあったと思うし、僕自身もそんな議論に加担してきたことは否めない。

 

しかしその音楽は間違いなく素晴らしいものだったと思うし、個人的にも特に「Bravely You」には何度も救われてきた。

 

例え化け物になろうとも成し遂げる

 

それまでの過程がいびつでも、ぼろぼろで変わり果てた姿になっても、一度決めた約束のために必ず帰ってくるという決意。
心折れそうになったときに何度も聴いてきた。

 

物語というのは起承転結的な一直線の流れを持ち、「終わり」がある。
その先の世界は二次創作でもしないかぎり存続しない。
だから作り手がそれを否定したり、受け手が作品の存在を忘れてしまったらそこで終わりなのだけど、音楽というのは繰り返し再演されることで、そのたびに新たな表情を獲得する。
そもそも、記憶=物語ではない。一度体験した物語を思い出すとき、それは必ずしも直線上に配列されていなくてもよいのだ。

 

音楽は間欠的な記憶の想起をアシストする。メロディやリズム、ループ構造に、その時々の感情が刻印されている。
本来離れたところにあるシーンが、音楽が喚起する情動によって直結され、間をショートカットしたり、順番が入れ替わったりするということがある。

 

Charlotte』は、熊木さんの歌う「君の文字」で一度閉じてしまった。そしてその作品ごと、麻枝さんは失敗作と断じてしまった。
熊木さんと麻枝さんはのちにアルバム『Long Long Love Song』を共作しているが、実はこれは熊木さんサイドからのオファーがきっかけだったそうだ。

 

熊木さんは本編での「君の文字」演奏の際、あの単調ながら複雑なリズムパターンを持つ楽曲をほとんどオーケストラのほうを見ることなく、テンポをキープしながら歌い上げており、もはや指揮者のように全体をコントロールしていたのにはとんでもないスキルの持ち主だと感嘆させられたのだけど、
「こんな人が何かを見出したのなら、やはり麻枝さんの作る音楽は特別なものなのだろう」と、これまでにない確信がそのときに生まれていた。

 

物語を閉ざしたはずの楽曲が、その歌い手と大人数のオーケストラによって再演された……そのことだけでも報われた感があったのに、
図らずも物語の「終わり」を担ってしまった熊木さんが、その「始まり」の楽曲である「Bravely You」を(Liaさんとともに)歌ったということ。

 

Charlotte』という音楽=物語に、潜在的に鳴っていたものはこれだったのだ……と、二重の意味で打ちのめされてしまったのだった。

 

今回のセットリスト作成には、麻枝さん、折戸さんも関わっていたのだという。
麻枝さんがこの形で締め括ることを考えたのなら、そう考えられるようになったこと自体が喜ばしいことだし、あの会場にいて、ぜひその瞬間を聴いていてほしかったなと思う。
(キービジュアルには『Charlotte』のキャラだけがいなかったのだけど……これも伏線だったのかな)

 

本公演の模様はニコニコ生放送でも中継していたらしく、チケットを購入すれば9月26日までタイムシフトで録画が観られるそうです。
その他の楽曲も、原曲を知っている人には新たな楽曲の表情を発見する機会になるだろうし、特に「鳥の詩」のオーケストラバージョン(Liaさん歌唱!)はそれだけで金額分の元は取れるレベルでした。ぜひ。