麻枝准脚本新作アニメ『Charlotte(シャーロット)』に期待する三つの理由

先日、「元」鍵っ子を自称するブロガーの方がこんな記事を上げていました。

d.hatena.ne.jp

「元、なんてさびしいこと言うなよ……」と思うと同時に、こうして「不安」というのが先行してしまうのは作品にとってもよろしくないなと思いましたので、こうして筆をとった次第です(というか、たしかに盛り上がりが少ない感はある!!)

 

本稿では表題通り『Charlotte』に期待していきたい点を述べていきますが、その内容は以下の通りです。

  1. キッズに受ける「能力者もの」
  2. これまでの麻枝作品にはなかった「夜空」と「星」のモチーフ
  3. ミクロとマクロを接続する「セカイ系」の想像力

順に見ていきましょう。

 

1. キッズに受ける「能力者もの」

麻枝氏は自己の作品を語る際に(とりわけユーザー層の広がった『Angel Beats!』以降ということになるでしょうが)「キッズ」に受けるかどうか、という言い方をよくします。これは「ROCKIN'ON JAPAN」などの音楽雑誌でよく使われる表現なのですが、ようするに「特定ジャンルへの熱量が高いティーンエイジャー」のことを指すものと言ってよいでしょう。そして『Charlotte』が戦っていく「特定ジャンル」とは、「物語性のあるエンターテインメント」一般を指します。そこはゲームのシナリオライターや作曲家など、これまで多くのメディアを股にかけた仕事をしてきた氏ならではの感覚が働いているのでしょう。いわゆる「今期」の他のアニメをライバルとしているのではないし、「視聴者」という言い方で対象をアニメファンに限定しないのもそのためです。

今回、強度の高いエンターテインメント作品を送り出すにあたって麻枝氏が題材に選んだのが「能力者もの」でした。個性豊かな登場人物がその個性に見合った特殊能力を発揮して、時に苦悩し、時に手をたずさえながら困難に立ち向かっていく。少年漫画やライトノベルではおなじみの「王道」な設定は、成年向けゲームのシナリオライターを出自とする麻枝氏のキャリアからすると新鮮なものです。「死後の世界」といういささかトリッキーな設定を用いた『Angel Beats!』と比べても、より間口が広がっているということはいえるのではないでしょうか。登場人物の持つ特殊能力が単体では非力なもので、その組み合わせによって問題を解決していくというのはそれこそ「キッズ」に絶大な支持を得ている「カゲロウプロジェクト」との親近性も感じさせますし、プロデューサーが海外ドラマ『HEROS』を薦めたというエピソード*1にもある通り、超メジャー作品とも通底するものがあるはずです。「麻枝准が能力者ものを」という観点ではなく、「能力者ものを麻枝准が料理したら」という観点でみると、また新鮮な観方ができるのではないでしょうか。

 

2. これまでの麻枝作品にはなかった「夜空」と「星」のモチーフ

Keyの初期三部作『Kanon』『AIR』『CLANNAD』に顕著ですが、麻枝氏の関わってきた作品には季節感を前面に押し出しこそすれ、それはどこか「青空」や「夕暮れ」、もしくは荒野のような「幻想の世界」につながるイメージに彩られてきました。Tactics時代の処女作『MOON.』や『リトルバスターズ!』の朱鷺戸沙耶ルートでは地下世界が舞台になりましたが、「夜空」や「星」が全面的にモチーフとなったことは一度もないんですね。

そして『Charlotte』では明らかにそれらのモチーフが重要な役割をはたすであろうことが予告されています。キービジュアルにはヒロイン・友利奈緒の背後に一筋の流星が瞬いていますし*2、主人公の妹も天体観測を趣味としているようです*3。そもそも仮タイトルが「箒星リローデッド」というものだったらしいですからね(発案者は麻枝氏の友人の中川氏)。その案が没になったきっかけが、麻枝氏の元盟友・久弥直樹氏の手がけた『天体のメソッド』のタイトル発表だったとのことでした*4

そう、この点において麻枝氏が「星」をモチーフにしたことには大きな意味があると思うのです。Keyブランドを麻枝氏と共に立ち上げ『Kanon』を完成させた久弥氏はほどなく袂を分かち、十数年の歳月を経てそのリフレインを『天体のメソッド』という形で結実させました(久弥氏はある対談で「もう一度久弥直樹をやってみよう」というのが『天体のメソッド』のテーマだったと語っています*5)。そして今また麻枝氏が「星」をモチーフに、新たな作品に挑もうとしている……。「新たな青春と運命の物語」というキャッチフレーズが『Charlotte』には与えられていますが、占星術というものもあるほどに「星」の巡りを読むことは古来より「運命」と結び付けられてきました。Keyというブランドの軌跡を追ってきたファンには、すでに「新たな運命の物語」が走り始めているのが見えているのではないでしょうか(そしてそれは、Keyとともに青春を過ごした視聴者の「新たな青春の物語」をスタートさせるものであるとも期待したいです)。

 

3. ミクロとマクロを接続する「セカイ系」の想像力

身近な学園生活と「世界の果て」のような場所を一足飛びにつなげてしまうような想像力は、かつて「セカイ系」と呼ばれました。2000年代前半に隆盛を極めたそれは「キミとボク」の「閉塞的」な関係を中心に据えた作品として、主として社会評論の文脈から「時代の気分」として片付けられることも多かったわけですが、本質的には単に(アニメであれば)作画にかけられるリソースが少なかったために編み出された、方法論上の問題でしかなかったように思います。たとえば「セカイ系」の代表とされる新海誠監督の『ほしのこえ』も自主制作アニメーションでした。最低限の登場人物しか描けないこととスペクタクルを両立させるために、その隙間を埋めるものとしてモノローグが多用される。自然、物語のトーンは「内省的」で「閉塞的」なトーンを帯びるわけですが、しかしそれもひとつの可能性ではあったと思うのです。その後のテクノロジーの進化は目ざましく、自主制作でもかなり精巧に「世界」をモデリングすることができるようになってきました。プロの制作スタジオにしてもそうで、アニメーター志望の人数も増え、3DCGの積極的な導入もあって「動かす」「細密に描く」ことにどこか憑かれているようにも見えます。

2000年代にあっては「そうせざるをえなかった」セカイ系の方法論というのも、いまなら複数ある手段のひとつとして選択することが可能です。しかし「時代の気分」と結び付けて語られることが多かったからか、それを積極的に用いるスタジオは少なかった。今回『Charlotte』がやろうとしているのは、まさにそこではないかと思うのです。以下のカットなんかに僕はどうしようもなく「セカイ系」的なものを感じてしまいます(「キミとボク」が見つめる「世界の果て」!)。

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こうしたある意味「逆行」ともいえるコンセプトを、『SHIROBAKO』でアニメーション制作の現場そのものをアニメ化したP.A.WORKSが体現しようとしているのは興味深いです。かの作品によってアニメ制作の歴史を相対化する視点を持ちえたからこそ、ひとつの手段として「セカイ系」的な表現を選び取ることもできるようになったのかもしれません。このような視点を導入すると、「元」鍵っ子であり「現」アニメファンである件のブロガーさんのような方にも、注目すべき作品だということが言えるのではないでしょうか。

 

以上、私が思うアニメ『Charlotte』の注目ポイントを三点挙げてきました。「麻枝准の新作」ということは既にこれでもかというくらい宣伝されていますし、ご本人もその自覚を持ってこの作品を送り出しているとは思うのですが、そうすることで様々なバイアスがかかってしまうのも事実。個人的には古くからのKeyファン・麻枝ファンほどまっさらな「新作アニメ」として、そしていちアニメ好きの方はこれをきっかけに「麻枝准」とはどのようなクリエイターなのか、ということを意識していけるといいのかな、と思います。「『Charlotte』は麻枝准私小説」という、プロデューサーおよびP.A.WORKS社長の気になる発言もありますし*6。ファン歴の長さに関係なく、より多くの人を巻き込んでこの作品が盛り上がっていけばいいな、と思います。

*1:Charlotte×AnimeJapan 2015 特別企画 より、麻枝准さん本人による回答:「(能力者ものは)自分の中では未知なるジャンルでした。特に影響も受けていません。鳥羽PからHEROESというドラマを教えてもらい、シーズン1だけ参考に観ました。面白かったです。」

*2:参考:キービジュアル第一弾

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*3:参考:PVの一カット

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*4:麻枝准の殺伐RADIO」2015年2月28日配信分より。

*5:『天体のメソッド』イメージアルバム『ソナタとインタリュード』ブックレット所収「『天体のメソッド』の奇跡 久弥直樹×fhána対談」より。

*6:電撃 - 『Charlotte』最新PV公開! 鳥羽洋典氏と堀川憲司氏にスタッフィングの狙いを直撃 より。「“ゲームのシナリオライター・麻枝 准”が書く主人公だった『Angel Beats!』の音無とは異なり、今作の有宇は完全に“人間・麻枝 准”が反映されている。そういう意味で、『Charlotte』はとてもピュアで、麻枝さんの集大成といっていい作品になると思います。麻枝さんはいつもご自分の人生を削って創作している感がありますが、今回は特にそれが如実で」という鳥羽プロデューサーの発言も。