個人的に面白かった「ライトノベル」を振り返ってみる

第22回電撃小説大賞「大賞」を受賞した作品『ただ、それだけでよかったんです』がとても読み応えのある作品で、同時にこれは「ライトノベル」なのかどうなのか? ということでも話題になっているようなので(なんというか、そういう自問自答をしたくなる作風なのだ)、あまりライトノベルというジャンルを読まない自分が、「これは『ライトノベル』だろう」と思って読んでみて面白かった作品というのを振り返ってみたくなった。以下順不同に紹介してみる。

 

ただ、それだけでよかったんです

説明のしづらい作品なのだが、徐々に浮かび上がってくる真相、その出し方が上手いのと、語り手が相互に入れ替わる構成、テーマ性の結実の仕方など非常に練りこまれた作品であることがわかる。著者はメディアワークス文庫からの出版を望んでいた(?)らしいが、電撃文庫で出したのは(つまりイラスト付きという形態で出したのは)正解だったかもしれない。イラストが作品の雰囲気にすごく合っている。「表紙買い」も大いに推奨したい作品。

 

・愚者のジャンクション

アクの強いキャラがある事件の真相を紐解いていく物語……のように見えてキャラ同士の騙し合いであり、明確な解答というものも用意されていない、ビターエンドな物語が好きな人にはおすすめな作品。上下巻で事件への光の当て方が全く異なる(語り手も違う)ということ、閉鎖的な学校という空間で起きた人死にの事件に対して異なる視点から切り込んでいくところなどノベルゲーム『素晴らしき日々』が好きな人にはおすすめできるかもしれない。

 

・葵くんとシュレーディンガーの彼女たち

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)

 

眠りから覚めるたびに二つの並行世界を移動するという特異体質の持ち主である主人公が、それぞれの世界で異なる幼馴染の間で揺れつつ、同じような設定の劇中劇を完成させようとするという……二重三重に入り組んだ作品で、設定を見ればわかる通りギャルゲー読者には特におすすめしたい一作。劇中劇を作り上げていく過程は学生時代に演劇をやっていた作者の実体験が反映されているとのことで、その意味でも読み応えがある。

 

・明日、今日の君に会えなくても

多重人格もの。最初にひとつの謎が提示され、それを引き起こしたのは果たして(その人格の内の)誰だったのか? という謎解きの軸を一本持ちつつも、消えゆく運命にある交代人格の、それぞれの最後の日々を描くオムニバスストーリーになっている。『俺たちに翼はない』と『Angel Beats!』の設定上の核たる要素を抜き出して組み合わせ、せつなさ溢れる筆致で仕立て上げたもの……と言えば伝わるだろうか。淡い筆致のイラストも内容に合っている。

 

・全死大戦2 少女覚醒

全死大戦(2)  少女覚醒 (角川文庫)

全死大戦(2) 少女覚醒 (角川文庫)

 

ノベルゲームシナリオライター元長柾木の手による小説『荻浦嬢瑠璃は敗北しない』の文庫版。独自の「セカイ系」論を唱える氏の思考回路が最も強く具現化された作品になっていると思う。学校というものを打倒すべきひとつのシステムと見立てるところまではありがちだが、氏の作品の魅力はそれを具体的な支配者(校長なり生徒会長なり)との対決ではなく、思弁的な領域での闘争に持っていく手つきにある。空気を「読まない」ことの重要性を説く(あるいは「空気」なんてものは最初からないと断じる)その姿勢にも、とても勇気づけられた。

 

・つめたいオゾン

つめたいオゾン (富士見L文庫)

つめたいオゾン (富士見L文庫)

 

ノベルゲームシナリオライター瀬戸口廉也の変名による小説作品。彼の書いた作品はどれも良いのだが、現時点での最新作であるこちらを紹介する。シナリオライター時代から一人称による独特の暗さを持った饒舌体を真骨頂とする作者だが、本作品においては三人称による透徹とした視線が印象的。架空の病気を題材に幻想と現実の境目があやふやになっていく手つきはボリス・ヴィアン『日々の泡』をも思わせる。「暗いもの」を執拗に描くことで「光あるもの」を浮かび上がらせようとする著者の特徴もよく出ている。

 

・絶望系

絶望系 (新潮文庫nex)

絶望系 (新潮文庫nex)

 

ライトノベル界の「奇書」とも呼ばれる本作だが、『涼宮ハルヒの憂鬱』の作者らしい、メタ・キャラクター文学とも呼べる内容の小説になっており、批評的な完成度が非常に高い。物語やキャラクターを「装置」として捉え、「それらしい役割さえそこに当てがっておけば、後付けで物語は生成される」とメタ的に突き放す視線は、起こる事件や描写こそより凄惨なものの、骨格としては『魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』と非常に近いものを有しているように思える。それを一冊の小説で、しかも2005年の時点でやってのけていたというのだから恐れ入る。

 

・果てなき天のファタルシス

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

 

東浩紀門下の批評家/小説家、坂上秋成の主催する同人誌『BLACK PAST』に掲載されたのが初出の作品。内容を概略するなら超能力バトルに置き換えた『マブラヴ オルタネイティヴ』(ただし主人公は『オルタ』とは逆に記憶喪失状態)。十文字作品特有の「他者とのコミュニケーション可能性について諦念を抱えつつも、それでもコミニュケーションを希求してやまない」語り口というのがこの作品においても見られる。坂上氏の解説含め、個人的に「ライトノベル」入門としておすすめな一冊。

 

以上8タイトル。こうして見るとノベルゲーム的な時空間のインフレーションやどんでん返し、多視点による群像劇的構成というのに惹かれる傾向があるみたいだなと。それに加えて小説というものに僕は「殺伐とした展開」を求めてしまうみたいで(たぶん結末に向かって一方向に流れていくという小説という表現の形式そのものが、登場人物に過酷を強いるものだと理解しているからなのだと思う)、そういうものは配点が高くなっている印象。

 

以上の並びを見て、ぜひおすすめの小説があれば(「ライトノベル」に限らず!)教えていただけるとうれしいです。